国際石油開発帝石(INPEX:1605)の第2四半期決算 分析

国際石油開発帝石INPEX:1605)の第2四半期決算(1-6月)が発表されました。
考えたことを書いてみます。
 
原油・ガス開発の生産における国内最大手の会社です。政府が黄金株(拒否権付種類株式)保有
発行済み約14億6000万株のうち、約2億7600万株(約18.9%)を経済産業省保有しています。親方日の丸です。
世界のあらゆる場所の資源権益を所有しており、同時に販売権も持っています。
 
最近では豪州イクシスLNGが目玉権益で、年間890万トンのLNG生産能力を持っています。日本の会社が操業主体(オペレーター)として取り組んでいる珍しい案件の1つです。

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ただし地域別販売量でみると、中東・アフリカの原油権益の比率が圧倒的に多いです。

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2.決算内容
2020年12月期第2四半期の売上高は3916億円(前年同期5752億円)、経常利益は1492億円(前年同期2711億円)。
大きく業績が落ちました。しかも、通期連結業績予想(ガイダンス)については前回の130億円黒字から、最終赤字1207億円へ。なんだこれ?
 
前回発表の前提条件より原油価格は上値修正にも関わらず、1924億円の減損計上。
うち1308億円を占めるプレリュードFLNG*プロジェクトはオーストラリアでSHELL社などと共同で開発した案件。JERAや静岡ガス向けに販売しているもの。
 *FLNGとはFloating LNG(FLNG)またはLNG FPSOと呼ばれる浮体式液化天然ガス生産設備で、洋上で天然ガスを、体積約600分の1の液体(LNG液化天然ガス)に変化させる設備を搭載したFPSO(MODECのHPより)

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販売先である、2社の決算を見てみましょう
JERAの決算短信(4-6月期)、連結売上高が前年 同期比25.8%減の5,900億円。
静岡ガス決算短信(1-6月期)、売上高は前年同期に比べ14.5%減の666億円。
と、いずれも売上高が大きく下がっている。
これら販社の業績低迷をもろに被ったものと思われます。
 
加えて、資産価値の下落、という面も大きい。
基本的にLNGの販売契約は10年以上の長期契約がベースなのですが、価格は原油リンクのことが多いです。
このプレリュードFLNGプロジェクトを決めた2018年ごろのWTI原油価格がだいたい70ドル。
この価格の前後を前提としてプロジェクト全体の資産価値および損益計画を計算しているとみてよいでしょう。中期経営計画でも原油価格前提を50~70ドルのレンジで置いています。
価格計算式は、おそらく aX+b = Price (a,b=定数, X=貿易統計における原油製品価格など)のように契約で決めてるはずです。
今のWTI原油価格が40ドルくらいなので、この数字だけで見ると、資産価値が4/7に目減りしたことになります。しかも、販売する時の価格式にも反映されてきてしまう。一方で、オペレーションコスト(人件費、採掘日、減価償却費)はほぼ固定費としてかかり続ける。要は、当該プロジェクトの「稼ぐ力」が大幅に減ったわけなんですね。
繰り返しになりますが、今の資産価値の計算根拠が原油価格70ドルの頃のものなので、このまま原油価格40ドルとかそれ以下の状況が続くようだと利益なんて出ない状況なんです。なので、「時価ベース」で資産価値を評価しなおして、今期にその差額を赤字として計上します、というのが減損なのです。
 
超簡略化した例
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700億円のPJ、毎年70億の売り上げ/コストが50億=20億のもうけ!
=>毎年40億の売り上げ/コストが50億=10億の損!
コストの中には、PJの減価償却費も入っているので、資産価値自体を評価しなおすことで、コストの部分も圧縮できます。
 
減損後(資産価値700億→400億へ)
400億円のPJ、毎年40億の売り上げ、コストが30億=10億のもうけ!
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わからなかったらスルーしてください!あと、もっと詳しい人がいたら是非教えてほしいです。
 
 
3.今後の見通し
ということで、上にも書いた通り、通期連結業績予想(ガイダンス)については前回の130億円黒字から、最終赤字1207億円となっています。
 
しかし、5月発表値に比べると、売上高、経常利益ともに上方修正がかかっています。
今回発表値(ガイダンス):売上高7300億円(前回発表7100億)、経常利益2000億円(前回1630億)
 
キャッシュフローも前期より良化しているようです。
上述した減価償却費もキャッシュの動きには関係ないですからね。資金繰りは心配なさそう。
営業キャッシュフロー1735億(前年同期1545億)、投資キャッシュフロー -1677億(前年同期-1944億)、財務キャッシュフロー1240億(前年同期249億)
=>現金同等物残高3031億(前年同期2191億)
 
個人的には、資源価格の安い今こそ、政府がバックについている当社には、ガンガン投資して権益取ってほしいと思います。
まあ一朝一夕で決まるものではないので難しいと思いますが、商社のエネルギー部門の方がうまいことまとめてくれるでしょう!
 
なお、通期決算は赤字となりますが、配当については1 株当たり 24 円 (中間 12 円・期末 12 円)なので、8月7日現在の株価670円で考えるとGROSSで利回り3.5%です。
原油価格には相当振り回されますが、中長期で取り組むには悪くない銘柄だと思います。
 
なにより資源開発・調達にはロマンがある!
 
 

 
 
なお、資源・エネルギー開発を俯瞰して学ぶには、黒木亮氏の「エネルギー」がおすすめです!