Book review / 海賊と呼ばれた男/百田尚樹

海賊と呼ばれた男/百田尚樹
 
あらすじ
第二次世界大戦前後における、日本において唯一、終始「孤軍奮闘」していた石油元売り会社の話です。モデルはいわずもがな、出光興産出光佐三
始めは石油製品のいち小売り業者であった、主人公・国岡鐵造率いる国岡商店が「大地域小売業」によって中間搾取をなくし、直接事業者へ製品を届けることにより、産業を発展させたいとの思いから、立ちはだかる様々な課題に立ち向かっていく。
一人では解決できないことでも、主人公の人柄に心をうたれた周りの関係者が手を貸してくれることでなんとか切り抜ける。しかしまた大きな問題が出てくる。。自分が正しいと信じることをやりきる力を感じます。
同業他社はもちろん、日本政府や統治下のGHQ、外資石油会社、イラン政府やイギリス政府とも渡り合う商魂、商才は目を見張るものがあり、石油ビジネスの奥深さを感じることができる。
 
著者の百田氏がもともと放送作家でもあるので、脚色がどの程度入っているのか不明ですが、参考文献を見てもかなり調べられてるし、近代日本における石油産業を通して理解するには、読みやすいのでオススメです。
 
 
キーワード等
 
原油は国力」
少し身の上話になりますが、最初の会社に就職するにあたって、私が述べていた志望理由は、「日本にとって、原油などの資源確保は至上命題。そのせいで戦争も起きた。国の経済・産業の根本に関わることなので、そういった仕事に携わって、国の発展に貢献したい。」といったものでした。
大学の研究課題やゼミで勉強したことから導いたものでした。そう、たまたま、この作品の主人公、国岡鐵三と同様の主張になっていました。日本の原油を外油(外資石油会社)に握らせてはならん、独立した会社がこれを行わねば。こういった思想が、出光を現代まで発展させ続けたドライバーでした。
いま思えば、面接官はこの本を読んでいたと思います。好感触でした。
しかし技術の発達により、石油をはじめLNGや石炭も確認埋蔵量が年々増え続け、石油製品が世の中にあふれ、経済産業省は供給過多を懸念し、日本の石油精製設備における生産能力を縮小させようとすらしてます。
資源確保が第一、の時代は終わったのです。よほどのことがない限り、今の時代、より安くより良い資源を買い付けられます。JERAが良い例です。
いまや日本における石油産業とは、石油装置産業に関わる組織の雇用を壊さないように、どうやって需要に見合った規模に調整しようかという段階に入っているといえます。同じことは実は、鉄鋼メーカーにも言えます。コロナショックにより、国内の製鉄所も閉鎖の危機に追い込まれています。
あらゆるコモディティ産業の宿命かもしれません。
 
「従業員は家族」
就活の時に、出光興産のイベントに出たことがありました。その時は、経営学の授業でかじった組織論の知識が頭にあり、外資系の合理的な組織運営に憧れていたので、「従業員は家族だ」「労組はつくらない」と言っている目の前の社員たちに前時代的な印象しか覚えませんでした。
しかし、今の価値観からするとあまり「合理的」には思えないことでも、時代や環境が違えばそうでないこともある。
戦争という有事を経験したからこそ、「何があっても従業員は守る」そういう覚悟で出光氏は、従業員は家族だ、と言っていたのです。
先の見えない時代において、これほど難しく、また革新的なことはなかったと思います。
それでも、今の時代でこのような制度を運用するのは難しいのではないでしょうか。
 
「圧倒的な販売力」
前項とも重複しますが、出光佐三による商売のいろはを叩き込まれた従業員たちは、朝から晩まで全国津々浦々、製品の買い手を求めて奔走したといいます。
今のように道路や通信網も発達していない時代、他者が入り込めないような地方や顧客に、石油製品のワンストップサービスをもって、営業をかけていたというのは今にも通用するものがあると思います。
 
 
ちなみに、
本作の主人公のモデルになった出光佐三ですが、彼が通っていた神戸高商に私も通いました。
彼の名前を冠した講堂なんかもあり、もちろん当時から出光興産自体も知っていました。
しかし、具体的に彼がどんな人生を歩んで、どんなことを成し遂げた人だったのか、きちんとは知りませんでした。
初版が出たのは就職前でしたが、エネルギー会社に就職してからも、本書を目にすることはあれ、読むことはありませんでした。
自分の天邪鬼体質をうらみます。当時もし読んでいたら、自分の考えと共通するところの多さに感銘を受け、この業界に携わることに運命すら感じていただろうと思います。
 
今や生活に欠かせない石油関連製品、一度物語を通して勉強してみませんか。