Book review / 女帝 小池百合子/石井妙子

 
都知事選前の2020年5月に文藝春秋から出版された、ジャーナリストである石井氏の著書。
 
どんな作品?
 
2020年の7月に行われた都知事選の結果は、366万票を得た小池氏が、2位の宇都宮氏の84万票と大きな差をつけトップ当選。
都民有権者1100万人の実に33%が小池氏を選んだことになる。
単純に、なんで?と思った。消去法なんだろうけど、なんかしっくり来ないというか、氏を見てると普段から「演じてる」感じが強いんですよね。
 
作品については、そんな小池氏のことを生い立ちから始まり相当よく取材されて、関連文献も読み込んでいるし、小池氏本人や周囲のキーパーソンの思考や感情にまで描写が及んでいる、読み応えのある作品だった。
希望の党民進党を吸収して行った選挙戦でのドタバタ劇も臨場感があって面白かった。現代政治史を概観するのにもよい文献かもしれない。
 
読んだら何が変わった?
 
政治家っていうのは、その働きが表に出てくることはなかなかないもの。しかし、誰もが何かしらの功績を地道に積んでいっている。だからこそ有権者の支持を得られている、と認識していた。
しかし、理念、主義、主張のない人が、「政治家になりたい」から政治家になることもある。虚栄心、自己肯定感の追求。その根底には自分の抱えるコンプレックスがあることが多い。
環境大臣時代の水俣病被害者への対応や、都知事就任後の築地移転問題における築地女将さん会とのやりとりの記録を見て、利害関係が対立していて、きっぱり解決することが難しい、いわゆる「政治的」な問題を自分の地位を確立ないし向上させるために利用するということも多々あるのだろう、と学んだ。
 
問題点等
 
作品中でも何度も出てくることからも、著者が一番この作品でアピールしたいことは小池氏のカイロ大学主席卒業についてだろう。
決定的証拠として、同居人であった早川玲子氏(仮名)の証言を大々的に取り上げている。
要約すると、カイロに来てからも大してアラビア語含め勉強していた様子などなかったのに主席卒業などしているはずがない、他にも小池氏の言動は嘘で塗り固められていたのだ、といった内容。
一方で、自分の目で、小池氏がアラビア語を話している動画を見たことがあるが、スムーズにコミュニケーション出来ていたように思う。
アラビア語能力自体を検証している人は何人かいるが、共感したのはこちらの記事でした。フスハー(文語)とアンミーヤ(口語)の関係もわかりやすく書いていました。
 
いずれにせよ、カイロ大学自体も同氏の卒業を公的に認めている中で、主に早川玲子氏の証言のみをもってこれを覆そうとしているのが、根拠として少し危ういと感じました。
 
 なんか日本の政治のドロッとした闇の片鱗を覗いてみたい、という人にはおすすめです。